蛙鳴かずの池


 福田の寺分(てらぶん)に「寺屋敷(てらやしき)」という地名が残っている。その名の示すとおり,昔,ここに妙法寺(みょうほうじ)という法華宗の寺がったそうな。


 寺の境内(けいだい)の池には蛙(かえる)がたくさん住んでおり,鳴き声を自慢しあっていたそうな。


 ある日,弘法大師(こうぼうだいし)というえらいお坊様が妙法寺に来られた。夏のことで,夜になっても多くの人々が集まって大師様のお話を聞いておられた。広い寺の中は大師様一人のように静かだったが,突然,池の蛙がさわぎ始めた。


 大師様は,「かえるよ,わたしの話がすむまでだまってくれないか」とたのまれた。すると,蛙はとたんに鳴くのをやめてしまった。お堂の中は元通り大師様の声が響きわたったそうな。


 それからというもの,その池の蛙は,鳴くことを忘れたかのように静かになった。人々は,この池を「蛙鳴かずの池」と今でも呼んでいる。